2012年6月15日金曜日

本日付の最高裁判決について (修正)

今日(2012/06/15)、マンガというかエロマンガの所持が児童ポルノグラフィを規制する刑法に反するとして訴追された事案(B 990-11)について、スウェーデンの最高裁判決が出ました。要旨からすると「児童ポルノグラフィに該当する内容を有するマンガとしての描写は、それが現実の児童と考えられる描写を除き、スウェーデン憲法の定める表現の自由と情報アクセスへの自由に鑑み、罰せられない」と。結論はともすると当然無罪。とにかく長く時間がかかったけど、これで一段落。

近からず遠からず事案を見てきた自分にとっては、色々言いたいこともありますが、それはともかくとしてささっと目を通していくつか気になったポイントを。

・論理構成

当該法律が基本的人権に何らかの制約を課すものか否か→YES→当該行為が表現の自由ないし情報享受の自由として認められるか→YES→当該行為に規制をかけるだけの著しい必要性(緊急性ないし重大性)が認められるかどうか→NO→権利が優先するので法律の適用はない=規制の合理性やEU規約との整合性についての判断はしない。

法律の違憲審査をするまでもなく、憲法上の人権として認められる限りオッケーというアプローチは、法律の違憲無効の判断を伴わない点ですっきりしないかもしれません。しかしながら、1) 弁護側としては余計な立法技術とか理論まで踏み込まないでも挙証が十分に出来る、2) 裁判所としても余計なところまで審査しなくていいので日本で言うところの違憲の判断が出しやすい、3) 無効とすると一定の規制がかけられなくなって困る場合でも権利性を保ちつつ法律は一応維持できる、4) 基本的人権の法に対する優位性という建前と理論的に整合する、というのが思いつくところ。

・39点中38点の描写は現実のものと考えられるとは認められない。

ともあれ判決では、著しい必要性(緊急性ないし重大性)の判断としては、当該描写が現実のものと信じるに足りるか、現実のものと考えられるか否かによって、その判断を分けています。メルクマールになる先例を作るために1点だけ分けた感じがしなくもないですが、実際の所は分かりません。

何故に現実のものと考えられるような、というとはっきりは言ってないものの、1) 当然現実の写真、2) ノンフィクションと言っても過言でないもの、3) CGが一部もしくは全体に使われていて写真と区別する意味に乏しいものや模写、ということが念頭にあるのではと思われます。

・残りの1点は現実のものと考えられる描写であるが、状況に鑑み所持が合理的な場合には、処罰の対象となる行為とはならない。

1点はかなり際どい描写として認定されてますが、描写がどのようなものかは分かりません。このあたりが表現の自由を規制する場合の古典的な危ない点ではあります。ただ判決は、行為者の一定の状況如何によっては、同法の定める適用除外にあたることを指摘した上で、本件においては、当該行為者が日本のマンガの研究や批評を行っていることをもって、その事情にあたるとわりとさっくりと結論づけています。なので、結局この法律がどうよ、ってところまではあまり踏み込んでいません。

とりあえず、弁護を引き受けて資料を受け取っただけで捕まるとか、研究レポート用にまとめるだけで刑務所送り、という状態にはならない、という点ははっきりさせた点で一応一定の評価ができます。

いずれにせよ、意志能力や行為能力が限定されている未成年者の保護の必要性、被害を伴う(間接的被害について広く認める主張もありますがそれについては判決では蹴っています)描写が写真以外でも考え得ることに鑑みると、落としどころとしてはまずまずという印象を受けました。細かい内容を書くモチベーションも時間もないのでとりあえずそんな感じです。

[2012/06/16 自分で読んでも意味不明な所を加筆・修正]
[2012/06/16 思うことがあったので続編、最高裁判決-その2を書きました]

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